川口自主夜間中学

埼玉の夜間中学運動の歩み

*運動の始まりのきっかけ
1985年の2月。千葉県市川市内で、「ザ・夜間中学100人トークマラソン集会」が行われました。1982年に千葉県内に初めてできた市川市立大洲夜間中学が、生徒の減少で閉校してしまうというので、支援の意味をこめて開かれた集まりでした。
そこに埼玉から参加していた3名が、生徒や卒業生・教師たちの語る夜間中学への思いを聞いていて、「私たちも埼玉で設立運動を始めます」と、『にわか宣言』しことが始まりでした。

*「準備会」の立ちあげ
この「にわか宣言」の翌月の3月、埼玉に夜間中学を作る会の「準備会」が立ちあげられました。集まった人数は、教師や主婦・学生・会社員といったおよそ20人でした。
その大半が「夜間中学って何?」という状態でしたから、都内の夜間中学を訪問するとか、卒業生や設立運動の経験者に話を聞くところから始めました。
その一方で、手分けして県内の義務教育未修了者などについての調査活動にも着手していきました。

*浮きぼりになった実態
約半年の短い準備期間でした。しかし、様々な活動の中でみんなを確信させてくれたのが、次のような調査の結果でした。
1)      県内の義務教育未修了者数は、一万人以上にのぼる。
2)      沢山の外国人が在住しているにも関わらず、心ある行政施策がなされていない。
3)      小・中学校の長期欠席児童の数は、全児童の約一パーセントにものぼる。
4)      毎年15、6人から20人が、都内の夜間中学まで一時間半も二時間もかけて通っている。
*「埼玉に夜間中学を作る会」の発足
こうして1985年の9月16日、県内外から100名の人々に駆けつけてもらい、埼玉に夜間中学を作る会は正式に発足したのでした。このことはテレビや新聞でも大きく取り上げられました。
事務局には、「ぜひ夜間中学で勉強したい」「何か手伝うことがあれば協力したい」、このようなうれしい声が多数寄せられました。きちんと準備を整えてからとの考えもありましたが、夜間中学ができるまで待ってもらう訳にはいかないとの結論に至りました。

*教室「川口自主夜間中学」の開設
発足集会から約三ヶ月後の12月3日、川口駅から歩いておよそ7分のところにある公民館で勉強が始まりました。毎週火曜日と金曜日の二回。時間は二時間で、マンツーマンを基本とした教科や日本語などの勉強です。こうして、自主夜間中学を運営しながら、設立をめざす取り組みが展開されるようになったのでした。
日本人生徒6人から出発しましたが、38年という年数が経った今では、生徒・スタッフとも増えて、しかも国際色豊かな教室になっています。

*もしかしたら夜間中学が!
運動を始めてから三年目の1988年でした。県内に公立夜間中学ができるかも知れないと、期待を持たせるできごとが一度だけありました。
当時の畑知事が上尾市で行った市民集会で、「義務教育未修了者の存在は承知している。市・県と協議する」と発言したことが発端でした。県教委や川口市教委も足並みをそろえて前向きな姿勢を見せていました。
ところが、川口市の教育長が突然替わり、県も川口市も消極姿勢に一転してしまいました。このことを機会にして、教育行政との関係はこう着状態に陥っていきました。

*設立に向けた様々な取り組み
運動がこう着状態に入って進展を見ない間も、県内から片道一時間半も二時間もかけて、都内の夜間中学に通う人は途切れることはありませんでした。
このような状況の元、私たちがどのような取り組みをしたか主なものを挙げてみます。
1)県知事・県及び川口市を始めとする市町村教育委員会との交渉、要望書・質問書の提出
2)「埼玉県内に、公立夜間中学を作って下さい」の月例『駅頭署名活動』
3)国会・県議会及び川口を始めとする市町村議会への働きかけ
4)発足以降の「周年集会」(作る会・自主夜中合同)の実施
5)機関紙「銀河通信」(作る会・自主夜中合同)の発行
6)県内を中心とする市民団体・労働組合との協力・協調
7)関東や全国の夜間中学(公立・自主)、或いは増設運動団体との連携

*運営体制の立て直し
運動が10年以上と長引くに従って人の入れ替わりも激しくなり、関わる人も減って行きました。自主夜中の運営と設立運動を限られた人数で効率的に進めていく目的で、16年目から二人代表制にし、20周年以降は作る会と自主夜中とで合同の事務局を置くようになりました。
また、25周年以降は県内の市町村が『応分の負担をしあって開設する共同開設方式』を提案するようになりました。このことが契機となり、埼玉の運動は夜間中学を作って下さいという要望から、こうすれば作れますよとの提案に変わっていきました。

*国会の『夜間中学・議員連盟』視察と文科大臣講演
埼玉の夜間中学運動が、30周年という大きな節目を迎えた2015年は、特筆するできごとが二つありました。
6月に、超党派の国会議員の集まりである「夜間中学等義務教育拡充議員連盟」の、13名による自主夜間中学視察がありました。その時会長であった馳浩衆議院議員が文部科学大臣に就任され、10月17日に行った「30周年集会」にかけつけて下さいました。そして、「立法化の現状と展望」と題する講演が実現しました。
夜間中学の集まりで、文部科学大臣が講演するのは初めてのことでした。

*文部科学事務次官が31周年集会で講演
馳浩文部科学大臣につづき、2016年10月29日に行なった31周年集会には、前川喜平文部科学事務次官が来て下さったのです。
演目は『夜間中学と日本の教育の未来』でした。馳文科大臣の時と同じく文部科学事務次官が、在任中に夜間中学の集まりで講演するというのは前例のないことでした。
埼玉の夜間中学設立運動の、30年をまとめた『月明かりの学舎から』に続いて、この講演のことは、演題をタイトルにしたブックレットを出版しました。

*奥ノ木信夫市長が夜間中学開設を英断!
2016年12月に、義務教育未修了者や不登校生を下支えする議員立法「教育機会確保法」が成立しました。
その翌年の3月、川口市の奥ノ木信夫市長が埼玉県内初の夜間中学を、旧芝園小学校跡地に開設すると明言しました。これは法成立後としては、千葉県松戸市に続く早い決断でした。
5月に奥ノ木市長を表敬訪問し、それから二年間、川口市や埼玉県の教育委員会と連携しながら準備に加わってきました。話しあいは市と県各8回、実に16回におよぶ回数を重ねたことになります。

*自主夜中と設立運動の継続を確認
県内初の夜間中学が地元川口市に開校することが明らかになった途端に、「署名活動も必要ないのでは」「作る会の役割はもう終わった」といった発言が、内部から聞かれるようになりました。
例え川口にできたとしても、秩父や所沢・深谷といった遠方の地域からは通いきれません。このことをみんなで議論し、県内初の夜間中学の誕生を埼玉の夜間中学運動の新たな出発と位置づけて、これまでどおりに運動を続けることを確認しました。
また、公立夜間中学ができても自主夜間中学は続けていくことは、15周年集会の頃から方向性を決めていました。公立と自主が並存することで、県内の学びを保障していく役割を担っていくという考えです。

*川口市立芝西中学校陽春分校が誕生
2019年4月16日。その日は、1985年に自主夜間中学を運営しながら設立運動を始めてから、ずっと抱き続けていた念願がやっと叶ったのです。34年という歳月が流れて、やっとたどり着いた日となりました。
入学式の77名の生徒には、川口自主夜間中学からの6名も含まれていました。私たちスタッフも、すべての生徒を祝福するために「ご入学おめでとうございます」の横断幕を持参してかけつけました。
こうして県内に住む未修了者や学び直し、そして外国人といった人たちが共に学ぶ公立夜間中学が船出しました。

*県内二校目をさいたま市に!
川口市は荒川をはさんで、東京のとなりです。とても県内全域から通うことは不可能です。やはり二校目は、県内唯一の政令指定都市であるさいたま市にと考えました。人口100万都市で交通機関が集中しているさいたま市は、もっとも二校目にふさわしい立地条件にあります。
文部科学省も47都道府県に最低一校の夜間中学を!とし、政令指定都市は別枠でと主張しています。川口市と同じように、周辺の市町村からの生徒も受け入れてくれれば、かなり広域からの通学が可能になります。
私たちはすでに、市議会の全党派・会派との話し合いに着手しています。

*県内の義務教育未修了者33,985人、さいたま市4,085人
2020年に国勢調査が行なわれ、10年に一度の学歴調査も実施されました。2022年5月に発表された最終学歴調査結果によりますと、全国の義務教育未修了者は898,748人という驚くべき人数でした。そして、県内が33,985人で、さいたま市が4,085人という実態が明らかになったのでした。
これまでの調査は、小学校と中学校を一括した方式だった為に、未修了者の正しい数が不明でした。このことによって、全国の潜在的夜間中学生の存在がつかめるようになったのです。

*安心して通える夜間中学の県内配置を!
この国勢調査の結果を踏まえ、2022年10月22日に行いました37周年集会で今後の方針を討論しました。
県内33,985人の未修了者の在住地域を分析しますと、全域の市町村に居住していることが明らかになりました。そのことから、川口の陽春分校と二校目をさいたま市と仮定した時、熊谷市や川越市周辺に三校目・四校目が、必要になってくるとの考えを導きだしました。
運動はすでに38年目に入っており、自主夜間中学を運営しながら、二校目をめざす取り組みはすでに始まっています。皆さんのご理解とご協力を心から願っています。

協⼒会員募集および寄付のお願い

埼⽟に夜間中学を作る会と「⾃主夜間中学」の活動は、会員の皆さんの会費(年間1,500円)とカンパによって⽀えられています。会員になって頂いた⽅には、会報の「銀河通信」(年4回発⾏)をお送りして、埼⽟に公⽴夜間中学を作る運動の取り組み状況や⾃主夜間中学の様⼦をお伝えします。


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埼玉に夜間中学を作る会

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